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初出場の鵬学園下した佐賀東、4ゴールで“鬼門”2回戦を突破!佐賀東高にとっては3年ぶりの選手権でのゴール

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佐賀東高にとっては3年ぶりの選手権でのゴール

[1.2 全国高校選手権2回戦 鵬学園高0-4佐賀東高 柏の葉]

 2回戦からの登場となった鵬学園高(石川)と佐賀東高(佐賀)。お互いに慎重な入りとなったが、初出場校の背番号9が積極的な姿勢を見せた。4-1-4-1の中盤左サイドで先発した鵬学園のMF越田瞬(3年)がピッチを横切るようにドリブルをして、佐賀東最終ラインを釘付けにすると、途中で進路を変えてペナルティエリアに侵入。佐賀東DFに倒されると、判定はPKに。

 しかし、次の見せ場は佐賀東にやってくる。MF千葉東泰共(3年)がゴール右に蹴ったシュートは、GK中島豊輝(3年)が弾き出し、得点を許さない。「止めてくれたのは大きかった」と佐賀東の蒲原晶昭監督は、試合のポイントになったと振り返った。

 得点こそなかたものの、鵬学園のペースで前半は進み、前半28分にはMF森田蓮(2年)からゴール前に入ったボールを千葉東がスルーし、越田が左足で狙う。しかし、これもGK中島にセーブされてしまった。

「なかなか勇気を持って、ボールのつなぎができない部分があった」と佐賀東の指揮官。対する鵬学園の赤地信彦監督は「前半はプラン通り」と、チャンスをつくりつつ、スコアレスで終えた最初の45分を評価した。

 後半に入って試合は一気に動く。7分、ロングボールをMF井手威丸(3年)が頭で落としたところをFW中里知己(2年)がひろう。「来るなと思っていた」という中里は、DFに寄せられながらも体を当てて、左足でゴールに流し込んだ。その8分後にも、再び中里。「FWルイス・スアレス(バルセロナ)が好き」だというストライカーが、この日2点目を挙げて試合を決定づけた。

 リードを奪った佐賀東は、中盤でボール保持する鵬学園を潰せるようになり、後半のシュートを1本におさえ込む。攻めては、DF松田凜太郎(2年)、FW永田雄暉(3年)が得点を重ねて4-0の圧勝。同校にとって過去5回阻まれてきた、2回戦突破をついに果たした。

「一言、悔しいです」。少し目を充血させた赤地監督は「うちは決めなくちゃいけないところで決めない。あちらは決めている」とゴールが遠かった試合展開を悔やんだ。「全国はそういうところ」。鵬学園にとって初めての選手権は、ホロ苦い結果で幕を閉じた。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 奥山典幸)

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【特設】高校選手権2016
連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

[MOM2009]佐賀東GK中島豊輝(3年)_「体が勝手に反応した」PKストップで快勝引き寄せた守護神「シュートストップもいい」と指揮官から高評価を受ける佐賀東高GK中島豊輝

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「シュートストップもいい」と指揮官から高評価を受ける佐賀東高GK中島豊輝

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 鵬学園高0-4佐賀東高 柏の葉]

 後半の大量4ゴールで大勝を飾った佐賀東高(佐賀)。前半には指揮官も「すごく大きかった」という、守護神のビッグプレーがあった。

 前半17分、鵬学園高(石川)のMF越田瞬(3年)が、ピッチを横切るようにドリブルを開始。ペナルティエリアに侵入されたところで、佐賀東DFが越田を倒してしまう。笛を吹いた主審は、ペルナルティスポットを指した。佐賀東の蒲原晶昭監督は「9番の選手がドリブルで来たのに対し、簡単にいってしまってPKになってしまった」と対応のまずさを指摘する。

 それでも、佐賀東にはGK中島豊輝(3年)がいた。北信越選抜にも名を連ねるMF千葉東泰共(3年)のシュートを、ピシャリと止めてみせた。

 このピンチをしのいで前半を失点「0」で終えたことで、佐賀東は後半の4ゴールにつなぐことができたという。「前半が終わったときに、監督から『後ろのほうは粘ってるんだから、前も結果を出してこい』と言われました」。そうハッパをかけられた1トップのFW中里知己(2年)は、先制点を含む2ゴールを挙げる活躍を見せた。

「高校生なので、点が入った入らなかったはすごく大きいと思う。PKが入っていたら、逆の展開になっていたことも充分考えられる」と蒲原監督は守護神の活躍に目を細めた。

 佐賀県大会決勝でのPK戦に続くPKストップ。しかし、殊勲のGKは「得意というわけではないです」。鵬学園のPKに関する情報が「まったくなかった」という守護神は、「体が勝手に反応した」と笑顔を見せた。

 佐賀東の選手権での最高成績は2回戦。先輩たちが過去5度にわたって涙をのんできた壁を越えた。「目標はベスト4です。佐賀県勢がまだいっていないので」。埼玉スタジアムでの準決勝まであと2勝。明日3日の3回戦では、滝川二高(兵庫)と対戦する。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 奥山典幸)

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【特設】高校選手権2016
連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

“2回戦の壁”突破!! 聖和学園、徳島市立とのPK戦制し史上初3回戦へPK戦を制して初の2回戦突破を決めた聖和学園高(宮城)が喜びを爆発させる

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PK戦を制して初の2回戦突破を決めた聖和学園高(宮城)が喜びを爆発させる

[1.2 全国高校選手権2回戦 聖和学園1-1(PK4-2)徳島市立 NACK]

 第95回全国高校サッカー選手権2回戦が各地で行われ、埼玉・NACK5スタジアム大宮の第1試合では3年連続4回目の出場となる聖和学園高(宮城)と2年ぶり15回目の出場となる徳島市立高(徳島)が対戦。後半21分に聖和学園が先制し、同25分に徳島市立が追い付き1-1で80分間を終えた試合は、PK戦を4-2で制した聖和学園がチーム初の2回戦突破を決め、1月3日に行われる3回戦で青森山田高(青森)と対戦する。

 個人技に長け、ドリブルを果敢に仕掛ける聖和学園に対し、徳島市立はしっかりとブロックを敷いて待ち構え、相手攻撃をはね返そうとする。だが序盤から聖和学園が守備網を切り裂き、フィニッシュまで持ち込む場面を創出。前半5分にMF鈴木智久(3年)の仕掛けから最後はMF原科勇我(3年)が、同6分にはDF西川啓人(3年)のロングフィードから抜け出した原科が再びゴールを脅かし、さらに同12分にはMF藤井僚哉(3年)がミドルシュートを枠内に飛ばしたが、3本のシュートはすべて好セーブを見せたGK佐野雄亮(3年)にストップされてしまう。

 すると、聖和学園に押し込まれる時間帯が続いた徳島市立が続けざまに好機を生み出す。前半16分にDF上野謙太朗(3年)、MF郡紘平(3年)とつないだボールからFW山本史弥(3年)が狙うも西川にブロックされ、同24分には後方からのパスで抜け出した郡が決定機を迎えたがシュートはゴールマウスを捉え切れなかった。

 初戦の海星戦ではドリブルで強引に仕掛けて相手守備網に捕まる場面が目立った聖和学園。しかし、「初戦は裏を狙えていなかった。パスも裏もある。何があるか分からないように選択肢を持とう」という加見成司監督の言葉どおり、この日はドリブルに固執するのではなく、パスをつないで攻撃を組み立てると、パスによって生まれたギャップをドリブルで突くなど、効果的に仕掛けを織り交ぜる。「初戦は硬かったけど、多少肩の力が抜けた」(加見監督)チームは、好機を生み出しながらもなかなか先制点を記録できないが、ボールを奪われれば素早い攻守の切り替えでボールを奪い返し、その後も主導権を握って試合を進めた。

 待望の先制点が生まれたのは後半21分。相手のクリアミスからPA内に進入したFW大八木隆斗(3年)のシュートは佐野に止められたものの、こぼれ球を大八木自らが蹴り込んでスコアを1-0とした。しかし、4分後の同25分、左サイドを山本が突破してゴール前にラストパスを送ると、郡がPA外から豪快なミドルを突き刺して徳島市立がすぐさま同点に追い付く。その後は両チームともにゴールを脅かしながらもスコアは動かず、1-1のままPK戦に突入した。

 迎えたPK戦。徳島市立3人目の上野のシュートがGK吉田龍生(3年)にストップされ、4人目のDF橋本日向(3年)のシュートがクロスバーを叩いたのに対し、聖和学園は1人目の西川から4人目のDF尾野匡祐(3年)まで全員が落ち着いて沈めて、PK戦を4-2で制して3回戦進出を決めた。史上初の2回戦突破に「あまり意識はしてなかったけど、一つ勝てて前進できたし、“2回戦の壁”と言われる中、それを越えられたのはうれしいですね」と笑顔を見せた加見監督は、「僕たちにはこれしかできないので、そこで勝負したい」と3回戦の強豪・青森山田戦でも“聖和学園らしさ”を貫き、真っ向勝負を挑む。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 折戸岳彦)

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【特設】高校選手権2016

[MOM2012]駒澤大MF米田泰盛(3年)_ファーストタッチで決勝点!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 高松商0-1駒澤大 駒沢]

「交代した直後のファーストプレーで、まさかボールがこぼれてくるとは…。たまたまボールが来て、決められてよかったです。ファーストタッチでのゴールは初めての経験でした」とはにかむのは駒澤大高(東京A)の殊勲の決勝ゴールを挙げたMF米田泰盛(3年)だ。

後半17分、駒澤大では「ほとんど全員が投げられる」(大野祥司監督)というロングスローがDF高橋勇夢(3年)の両手から放たれた。
「セットプレーは重視していて、スローインからも点が取れる練習は積んできた」という練習通りの形。「FW服部正也(3年)がバックヘッドをするのを信じてた」ボールは競り合いの末、自分の目の前に。振り向きざま逆足の左足を振り抜き、どうしても揺らせないでいた高松商高(香川)のゴールネットにボールを蹴り込んだ。
「(ゴールした瞬間は)頭が真っ白になって、でも応援している3年生と喜びを分かち合いと思って走りました」

部員268人を誇る大所帯である。当然、競争は厳しい。
「僕も最初はBチームでした。でも、いつもスタッフさんがついていてくれて、練習試合などをした結果でその都度カテゴリーが変動していくんです」
自身は50メートル6秒1というスピードを武器に2年生だった昨年度の選手権時からAチームに帯同するように。以来、Aチームを離れたことはない。ただ、前回大会の選手権では3回戦の松山工業戦(3回戦)でベンチ入りしたのみでピッチには立てず。その悔しさを糧に、「交代出場の多い」役割としてのプレーを研ぎ澄ませてきた。「アップの時点で一度息があがるほどダッシュを繰り返すなどして、試合にスムーズに入っていけるよう心と体の準備をしています」。

そしてこの日。「米田はスピードのある能力のある選手。まさかすぐに決めてくれるとは」と大野監督も驚きの結果を出してみせた。「今日、ひとつ結果として出たのは嬉しい」と本人も素直に認める。前日の1月1日はホテルの1人部屋で「3年間を思い出しながら体の準備をしていた」という。大舞台でも舞い上がらず黙々と準備を整える米田泰盛。派手なことはしないがきっちりと仕事を遂行していく、そんな駒澤大のスタイルを図らずも象徴しているように見える。

(取材・文/伊藤亮)


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【特設】高校選手権2016

連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

勝負を分けた戦術変更の綾…山梨学院、逆転で尚志を下す!

[1.2 全国高校選手権2回戦 山梨学院2-1尚志 駒沢]

山梨学院高(山梨)が後半の逆転劇で尚志高(福島)を振り切り3回戦へ勝ち進んだ。1月3日の3回戦では駒澤大高(東京A)と駒沢陸上競技場で対戦する。

U-17日本代表のFW加藤拓己(2年)をケガで欠き、身上の粘りをもって耐え忍ぶゲームプランを選択せざるを得ない山梨学院。1回戦では1度逆転を許すも再逆転でゲームをものにした尚志。両者の対戦は、尚志の攻撃をいかに山梨学院が粘り防ぐか、が焦点だったといえる。

「前半から押されることを覚悟していました。技術も体力も相手の方が上なのはわかっていた。うちは走れるという部分だけでなんとか後半20分まで粘って、残り20分で勝負したかった」
前半は無得点だったぶん、攻められながらも山梨学院のプラン通りであったことは安部一雄監督の言葉からも分かる。
だが、尚志の中村浩二監督も手ごたえは感じていた。
「前半途中からサッカー的にはつなぐ、相手をはがす自分たちのサッカーはできていました」。その手ごたえが結果に結びついたのが後半7分だった。右サイドからMF影山諒(3年)が中央に進出し、ラストパスを受けたMF加野赳瑠(2年)が合わせて先制点をものにする。

粘りが信条だった山梨学院がついに空けた穴。だが、ベンチはすぐに次の手を打った。
「失点した時間帯が早かったので、奪ったボールをロングボールでなく繋ぐことで押し上げていく形にシフトチェンジしました。それがハマった」(安部監督)
失点から7分後の後半14分、左サイドから出たボールをFW藤原拓海(3年)が繋ぐ。これを途中出場のFW宮崎純真(1年)が、1回戦後「もう少し積極的にいきたい」と公言していた通りシュートを決め追いついてみせた。

じつはこの同点ゴールまでの間、尚志ベンチは迷っていた。仲村監督が悔いを口にする。
「1点を先制した後、斜めにドリブルを仕掛けられるようになってボランチのスペースが空いてしまった時に改善策をうてなかったのが敗因です。ボランチをもう1枚下げて攻撃陣を下げれば1-0で逃げ切れるプランになったはず。ですが、攻撃的なスタイルでずっとやってきて、それを貫いた。自分たちのサッカーができていただけに決断が遅くなってしまった」
尚志も自分たちの信じるサッカーで攻め続けていた。1回戦同様DF常盤悠(3年)の正確なキックは相手に脅威を与え続けた。だが、つなぐスタイルに変更したことで息を吹き返した山梨学院の攻撃は、ただ耐え忍んでいた前半とは明らかに違う「圧力」を持っていた。
後半26分。左サイドを突破したDF森田和樹(2年)から前線に上がっていたMF小林友也(3年)へパスが通る。DFに詰め寄られるも粘った小林がゴールへボールを流し込み逆転。「小林はチームで一番運動量がある。アンカー的に守備に置いていましたが、点を取る場面ではボールを奪ったら(前へ)出て行けと」(安部監督)いう形での決勝点。苦しいチーム状況で選手権2勝目をもぎ取った。

「前半にも決定機があり、後半にも決定機があった。それをきっちり決めるのがうちのスタイル。でもそこで決めきれず、相手の粘りにあってしまった」という仲村監督は自分を責める。「自分の責任です」。チームの完成度は高かった。もっと“らしさ”を見せて今大会で尚志旋風を巻き起こす――そんな気持ちも強かったはずだ。だが「攻撃スタイルを貫かず、1-0、もしくは1-1からPKで勝つチームじゃないとこの大会は勝ち抜けない」とまた一つ重い経験を積んだ。

先制ゴールから戦術を動かした山梨学院と変えなかった尚志。結果は山梨学院に軍配が上がったが、どちらが正解とは言い難い。まさに紙一重の判断で勝者と敗者は分かれる。選手権の魅力であり、怖さを、改めて見せつけられた一戦だった。

(取材・文/伊藤亮)


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【特設】高校選手権2016

連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

[MOM2013]山梨学院FW藤原拓海(3年)_チームのためにあいつのために自分のために――走る!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 山梨学院2-1尚志 駒沢]

この試合で決勝点を挙げた山梨学院高(山梨)のMF小林友也(3年)は言う。「一戦一戦、チームの絆、一体感は強まっている」。同じ感覚は安部一雄監督も抱いているようで「一試合勝っても集中力は続いている」と言う。

現在の山梨学院のチーム事情を語る上で、FW加藤拓己(2年)の不在は外せない。U-17日本代表FWは、それほどまでに大きなチームのストロングポイントだった。だが、そんな大黒柱がいない状態で選手権2勝。ピッチ上の選手のプレーからは冷静でいつつも、「なんとかしよう」という必死さが感じられる。

その急先鋒といっていいのがFW藤原拓海(3年)かもしれない。加藤が不在の上に、1回戦で躍動したFW宮崎純真(1年)も足を痛め、この試合でスタメンは叶わず。急遽「初めて」(安部監督)というDF池澤飛輝(3年)をトップに据えるほどFW事情は苦しい。そんな中、3年生FWが背中でチームを引っ張った。チームは劣勢を想定せざるをえない。当然、攻撃チャンスは減る。だが、奪えそうにないボールでも追う。味方のフォローが追いついてなくても競る。その献身性は「チーム一」という50メートル5秒8の快速もあいまって余計目を引く。

1回戦ではシュート0本で後半23分に交代した。だが、この日はスタメンフル出場でシュート1本を記録し、後半14分の同点ゴールをアシストした。
「自分の前でゴールが入るのは辛いです(笑)。結果にはこだわりたい。1試合目よりスプリント回数も増えているし、段々ゴールに近づいている感覚があります」
自身はFWとして、ゴールを奪ってこそチームに貢献したことになる、と考えている。だが、この2勝に彼の踏ん張りが間接的にではあれ、影響している気がしてならない。

爆発的なスピードは小学生時代から備わっていた。だが、山梨学院に進学後、その武器を攻撃のみにしか使っていなかった。
「夏の前まで自分は守備をしませんでした。それで夏明けに出場機会を失って。その後改めることで監督の信頼をもう一度取り戻したんです」
自分はメンタルが弱いという。80分間走り切った体力についても「3年…トップチーム…いやチームの中でも一番ないんじゃないか」という。だが、「ラストなんで。迷惑はかけたくない」。

もう一人の「タクミ」、1年後輩の加藤拓己とはホテルで同部屋だ。
「同学年のように仲がいいんですよ。同じ名前ですけど僕は彼を『ゴリ』って呼んでます。でも彼は僕のことを『タクミくん』って呼んでくれます(笑)。あんな顔してカマチョ…かまってほしがりなんですよ」
部屋で話すことは「女の子のこととか(笑)」とりとめのないことばかり。だが、そんな気が置けない2人だからこそ通じるものがある。
「ラストはこいつと2トップを…と思ってましたけどケガをして。ただ、準決勝まで行けば分からない。あいつのためにも、そしてチームのためにもがんばりたいですね」
そしてもちろん自分のためにも。「みんな、だいぶ自信がついてきています。自分も最大限のスピードを活かして得点してチームに貢献したい」
もし現在結束が強まっている山梨学院がさいたまスタジアムへ行くとしたら――藤原拓海のゴールが決定的なピースになるかもしれない。

(取材・文/伊藤亮)


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【特設】高校選手権2016

連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

「惜しい」で終わらせなかった駒澤大、昨年に続き初戦突破!

[1.2 全国高校選手権2回戦 高松商0-1駒澤大 駒沢]


地元の歓声を背に最後まで走り切った駒澤大高(東京A)が、11年ぶりに選手権へ帰ってきた高松商高(香川)を振り切り3回戦へ進出。3回戦はこの日の第2試合で勝利した山梨学院高(山梨)と同会場でベスト8をかけて戦う。

当たりの激しい戦いになった。試合開始から互いに思い切りのいいプレスで自由を与えない。そんな中、徐々に圧力を強めていったのは駒澤大の方だった。24分にはCKからDF佐藤瑶大(3年)がヘディングで合わせ、続く26分には左サイドからDF長井虎之介(3年)、MF栗原信一郎(3年)とつないだボールをMF西田直也(2年)がシュート。ともにバーをかすめる得点チャンスだった。

対する高松商も前半30分を越えたあたりからカウンターでゴールを襲う。縦に鋭い攻撃で勢いを押し返す形で前半を終了した。

この前半の戦いぶりに関して、「前半はあまりにもひどすぎた。今までやってきたことを出そうと、冷静にいこうと散々言ってきたのにできていなかったので怒りました。それで後半は少し落ち着きました」という分析をするのが駒澤大の大野祥司監督。対する高松商の陶山輝佳監督は「立ち上がり20分が大事だという姿勢を選手がプレーで示してくれた。体格やハートで逃げないようにセカンドボールをひろったり、やり返せと。前半は上手く相手の流れを分断できたと思います。ただ、自分たちが通用したと思っている節があったので、まだ何もできていないぞ、と送り出しました」と分析する。

駒澤大のチームスタイルは、相手DFの裏のスペース「ハイサイド」にボールを放り込み、セカンドボール以降を拾ってたたみかけるというもの。狙いはシンプルだが「初めて初戦が年明けの2回戦からになって、自身を含めてどこか緊張感がなかった」と大野監督は振り返る。伝統の守備は堅い。持ち前の走力も随所に発揮しているように見受けられた。だが、点が取れない。
「この代は1年の時からポゼッションはできても点が取れず0-1で負ける試合が多かった」(大野監督)。いかにゴールを取り切るか、がポイントだったが、その答えを出したのが気を引き締め直して臨んだ後半の17分だ。
右サイドからのスローイン。DF高橋勇夢(3年)のロングスローのこぼれ球が、途中交代で入ったばかりのMF米田泰盛(3年)の足元へ。これを振り向きざま、本人にとっては「逆足だった」左足で決めて先制する。「うまくいきすぎ」と大野監督も微笑んだ米田のファーストタッチゴールが、この試合の決勝点になった。

「選手たちには感謝しています。ただ、ボールを奪った後の展開でミスをしてチャンスを与える場面が徐々に増えていた。0-0のまま試合が進むわけはないとは思っていました。問題は点を取られた後の攻めが不十分だったこと。試合を通して上手くボールを奪えているシーンも多かっただけに、その後の技術や精度を発揮できる経験値がなかったことが…。この試合が今後、高松商がレベルアップしていくきっかけになる試合になるととらえたいです」と陶山監督は試合を振り返る。試合は両チームとも「デュエル」を続けるタフな試合になった。後半は受け身の高松商イレブンの出足が弱まり、守っているだけで精一杯な状況に追い込まれたことも否めない。だが、1失点後追加点を許さなかったところに強みである「粘り」は感じられた。互いに難しいことをせず、割り切って迷いのないプレーが多かったからか、試合後はどこか清々しさが残った。

駒澤大にとっては、互いに耐えるゲーム展開は与しやすいものだったかもしれない。その形で昨年度ベスト8へ進出した財産もある。そういう意味では次戦の相手、山梨学院も似たようなチームカラーだ。
「6年前に負けているので(2010年度第89回大会3回戦0-1)、リベンジしたい」
連戦とはなるが、タフなゲームが1月3日、また駒沢で展開されそうだ。

(取材・文/伊藤亮)


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【特設】高校選手権2016

連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

[MOM2011]鹿児島城西DF生駒仁(2年)_全てカバーして、全て弾いた逸材CB、U-17代表対決制す鹿児島城西高のU-17日本代表CB生駒仁が完封勝利に大きく貢献

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鹿児島城西高のU-17日本代表CB生駒仁が完封勝利に大きく貢献

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 鹿児島城西高0-0(PK4-2)長崎総合科学大附高 等々力]

 注目のU-17代表マッチアップを制した。鹿児島城西高のCB生駒仁(2年)と長崎総合科学大附高のFW安藤瑞季はともにU-17日本代表の注目選手。その2人が80分間に渡って熱く、「清々しい」戦いを繰り広げ、鹿児島城西が3回戦へと駒を進めた。

 前半、安藤をファウルでストップした生駒は「(安藤)瑞季から『もっと来い』というような言葉があって。遠慮なく行こうと思ってやりました」と説明する。世代を代表する注目選手2人が遠慮も、探り合いをするようなこともなく、真っ向からの全力勝負。生駒はポストでボールを受けようとする安藤にボールが入るところをきっちりと潰して、危険人物に思うようなプレーをさせない。

 安藤封じるというタスクをこなすだけでなく、185cmの高さを活かしてロングボールの攻防で圧倒的な強さを発揮。また、サイドをワンツーで割られかけたシーンを素早いカバーリングからスライディングタックルで止めたり、クロスをニアで必ず触り続けるなど長崎総科大附の攻撃を阻み続けた。

「守備面で(味方が)1対1で負けたら危ないシーンもあるんですけど、自分が全部カバーしようと思って、そういう意識を持っていたのでできたと思います」。全部カバーし、全部跳ね返してやろうという気迫が伝わってくるような80分間。後半31分に安藤に切り返しで外されて左足シュートを放たれたほか、クリアが甘くなったシーンもあった。だが、39分にはPAへ潜り込んできた安藤のシュートを見事にブロックするなど、守備的な戦いをしてノルマ通りに無失点で終えた鹿児島城西において、その存在は間違いなく欠かせなかった。

 1年前は兄・生駒稀生(現大阪学院大)とCBコンビを組んで戦ったが、PK戦で兄が外して初戦敗退。「去年、兄がPK外してしまった面があった。兄がいない中で自分が借りを返すというか、勝って勝ち進みたいと思っていた」。今年、兄に代わってDFリーダーとなった生駒は味方への声がけも欠かさず、リーダーとして全国16強進出に貢献した。

 あまり気持ちを表に出すタイプではない。「植田(直通、鹿島)みたいにならんとな」とアドバイスを受けたこともある。その中でカバーする部分、弾く部分、そしてリーダーシップを発揮する部分と、注目DFは今自分がやるべきことを一つずつクリアしてより存在感を放ち、試合を支配するような選手になってきている。2試合連続で完封勝利を果たし、3回戦では前回大会優勝校の東福岡高(福岡)と対戦。逸材DFがこの日に続いて強力攻撃陣を封じ込む。

(取材・文 吉田太郎)
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【特設】高校選手権2016
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[MOM2010]聖和学園DF小倉滉太(3年)_“史上最弱”の主将から“史上最強”の主将へ聖和学園高(宮城)のキャプテンを務めるDF小倉滉太(3年)

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聖和学園高(宮城)のキャプテンを務めるDF小倉滉太(3年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 聖和学園1-1(PK4-2)徳島市立 NACK]

 史上最弱の代と呼ばれてきた。しかし、その世代が中心となり、チーム史上初となる2回戦突破を決めた。聖和学園高(宮城)のキャプテンマークを託されるDF小倉滉太(3年)は「すごいうれしいし、誇りに思います」と胸を張った。

 聖和学園は序盤から主導権を握って試合を進める。CBの位置に入る小倉もボールを持てばドリブルで果敢に仕掛け、守備に移れば危機察知能力の高さを活かし、危機の芽を未然に摘み取るなど攻守に存在感を示した。特に相手のカウンターの好機を幾度となく潰したことで、徳島市立高(徳島)の河野博幸監督も「ウチの攻めるチャンスを5番の選手(小倉)に全部カットされてしまった」と振り返っている。

 小倉自身も守備面、特に危機察知能力には自信を持っている。「1年生の頃にスタッフの方から危機察知能力が高いと言われて、CBに抜擢された。自分の特長が明確になったので、自分はそこを伸ばしていこうと思った」。攻撃面でもドリブル突破、効果的な縦パスでリズムを生み出したが、「僕は目立つ選手ではない。周りのチームメイトが目立ってくれれば満足です」と自身を“黒子”だと表現する。

「僕はキャプテンというキャラじゃない。プレーだったり、声でチームを鼓舞できればと思っている。あまり目立ちませんが、陰のプレーでチームを支えようとしています」

 チームは後半21分にFW大八木隆斗(3年)のゴールで先制しながらも、同25分に追い付かれてしまう。しかし、1-1のまま迎えたPK戦を4-2で制して、史上初の2回戦突破を決めた。チームの歴史を塗り替えたことに、小倉は満面の笑みを浮かべる。

「僕たちは史上最弱と言われてきました。何回もミーティングをして、見返してやろうという気持ちもあったし、必ず史上最強になろうという話をしてきた。皆が『俺たちが最強になる』と言い聞かせてきたことが、今日の結果につながったと思う」

 歴史を塗り替えたチームは、“史上最強”になったとも言えるが、歩みを止める気などない。翌3日に行われる3回戦では、昨年度の選手権2回戦で0-5と大敗した青森山田高(青森)と対戦する。「先輩の敵を討ちたい」と視線を鋭くさせると、「自分たちの目標は全国優勝。山田に勝って勢いに乗りたい」と力を込める。“史上最強”のチームの先頭に立ち、強豪・青森山田撃破を誓う。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 折戸岳彦)

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【特設】高校選手権2016

青森山田が圧勝スタート!! J内定MF高橋の先制点皮切りに5得点のゴールラッシュ5得点のゴールラッシュで好スタートを切った青森山田高(青森)

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5得点のゴールラッシュで好スタートを切った青森山田高(青森)

[1.2 全国高校選手権2回戦 鵬翔0-5青森山田 NACK]

 第95回全国高校サッカー選手権2回戦が各地で行われ、埼玉・NACK5スタジアムの第2試合では4年ぶり13回目の出場となる鵬翔高(宮崎)と20年連続22回目の出場となる青森山田高(青森)が対戦。前半7分に先制した青森山田攻撃陣が爆発。前半23分、同31分、後半3分、同28分に加点すると、鵬翔の反撃を抑えて5-0の完封勝利。翌3日に行われる3回戦で聖和学園高(宮城)と対戦する。

 最初に好機を生み出したのは鵬翔だった。前半3分、スピードに乗ったFW宇津元伸弥(2年)が抜け出してシュートまで持ち込むが、好反応を見せたFC東京内定のGK廣末陸(3年)に弾き出されてしまうと、危機をしのいだ青森山田が同7分に先制に成功する。MF住永翔(3年)のパスを右サイドで受けFW鳴海彰人(3年)が切れ込んで放ったシュートは相手選手にブロックされたが、こぼれ球に反応したJ2千葉内定のMF高橋壱晟(3年)が落ち着いてネットを揺らし、スコアを1-0とした。

 攻撃の手を緩めない青森山田は前半23分、廣末のロングフィードを受けたMF住川鳳章(3年)がボールキープで時間を作ってスルーパスを通すと、PA内に走り込んだ鳴海が右足のアウトサイドで流し込んで2点目を記録。同27分に高橋のFKから鳴海がヘッドでネットを揺らしたゴールはオフサイドの判定に取り消されたものの、同31分に中央でボールを受けた住永のスルーパスで右サイドからPA内に進入したMF郷家友太(2年)が落ち着いてゴールを陥れ、リードを3点差に広げた。

「1、2点目が早かったので、それがすごく大きかった。1点はオフサイドになって、ああいう後に1点を返されるゲームも多いけど、そういう意味で3点目をきっちり決めてくれたのは良かった」。チームを率いる黒田剛監督も満足気に圧倒した前半を振り返る。

 前半のシュートを1本に抑え込まれた鵬翔は、前半36分にMF甲斐斗真(3年)に代えてMF庭田順平(3年)を投入しており、後半7分にはMF宮本龍一に代えてMF野田海乘(3年)をピッチへと送り込み、流れを変えようと試みる。しかし、再びスコアを動かしたのは青森山田だった。

 後半8分、スピードに乗って左サイドを突破したDF三国スティビアエブス(3年)のクロスをMF嵯峨理久(3年)が合わせたヘディングシュートはGK原田健次郎(3年)に阻まれるも、こぼれ球に反応した嵯峨自らが蹴り込んで4点目。同26分にはDF宇都宮尊(3年)のロングスローから鵬翔が決定的なシュートを放つが、廣末が横っ飛びのセーブで弾き出してゴールを許さず。すると、同28分には住川のFKを郷家がヘディングで叩き込み、青森山田が5-0で大勝した。

 シードされたため、この日が初戦となった青森山田。黒田監督は「難しい初戦で自分たちのプレーをしっかりやってくれた」と選手たちを称賛しながらも、「次に進むということに関して言えば、5-0というスコアよりも、次のことを考えないといけないし、まだまだ攻守に修正することがある」と勝って兜の緒を締めた。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 折戸岳彦)

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[MOM2014]富山一FW本村比呂(3年)_亡き父と支えてくれる母へ恩返し弾、スランプ乗り越えたストライカー

[1.2 全国高校選手権2回戦 富山一4-1那覇西 ニッパツ]

 支えてくれる人への想いを胸にピッチへ立つ。富山一高(富山)は那覇西高に4-1で勝利し、3回戦進出した。3-0とするゴールを決めたのは9番を背負うFW本村比呂(3年)。大会直前には不振に苦しんでいたFWが力強い突破からゴールネットを揺らした。

 2-0の前半34分に本村にチャンスがやってきた。MF多賀啓志朗(2年)のパスを受け、右サイドから強引に持ち込んでいく。相手二枚を背負っていたがものともせず。コースを見極め、右足を一閃した。狙い澄まされたボールはGKの指先を抜け、左サイドネットへ決まった。

 試合後、本村は「去年の選手権での小川航基(当時、桐光学園高・現磐田)選手の青森山田高戦のシュートを何度も見ていて。あれに近かった……ですよね? なので少し嬉しかったです」と少し照れながら振り返った。昨年度大会3回戦・青森山田高戦で小川は右サイドへ抜けながら、逆サイドネットへシュートを突き刺していた。たしかに本村のゴールは、小川の得点に“そっくりな形”。「何度も何度も見ていたので」。脳裏に焼きついていたシーンを大舞台で再現した。

 堂々のプレーをみせた富一の9番だが、選手権富山予選後にはスランプに陥っていた。全国出場が決まっての気の緩みからか、ボールを収めることができなくなった。「運動量が確実に落ちて、前から全く守備にいけず。自分は守備から入って攻撃にいくタイプなのに、それができなくなり、自分のところにボールが来なくなって、だめだなと思いました」と言うとおりだ。「何をやっても上手くいく気がしなくて、何をすればいいかもわからない」。気持ちがついていかず、プレーが冴えない日々が続いた。

 すると、選手権の開幕約3週間前に大塚一朗監督に呼び出された。そこで言われたのは「それで後悔なくやれるのか?」という言葉。加えて「お父さんのためにサッカーをやるんじゃないのか?」と問われた。その一言にハッとした。

 本村が中学生のとき。父・昌夫さんが名古屋へ単身赴任中だったこともあり、強豪校や強豪クラブには所属していなかった。それでも父から「高校はお前の好きなところにいっていいぞ。サッカーをやるんやったら、中途半端に強いチームではなく、全国優勝を目指すようなチームにいきなさい」と言われ、「それなら富一しかない」と決意した。

 しかし、富山一へ進んだ高校1年生時の12月に父・昌夫さんが交通事故で急逝。「サッカーを辞めようかと思いました」と当時を振り返る。それでもお世話になっているOBの方や大塚監督から「お父さんはそんなことは望んでいないと思う」と言われたこともあり、サッカーを続ける決心をした。2年前を振り返った大塚監督は「自分の気持ちに素直な男。サッカーをやりたいという想いはどんなことがあっても変わらない。ここで辞めさせたらいけないと思いましたね」と言う。

 父の亡き後、本村はとにかくひたむきに練習へ取り組んだ。いつも厳しい父親だったが、母の前や職場では「(息子は)プロになるはず」と話していたと人づてに聞いた。父の想いを知り、「プロになりたい」という想いは日に日に強まっていった。努力は実り、高校3年生の今季には富一の主力に。そして選手権への切符をつかんだ。

 しかし、指揮官が「ポテンシャルが高いけれど、気持ちにむらがある選手」と表するように、メンタル面に課題があった本村は、ここで調子を落としてしまう。「精神的なものだと思います」。全国切符を手にした安堵からスランプに陥った。そこで指揮官から言われたのが「お父さんのためにサッカーをやるんじゃないのか?」という一言だったのだ。

 我に返った本村は、原点回帰とばかりに無我夢中でトレーニングに取り組んだ。スランプ脱出のために「ひたすらボールに触ろうとシュート練習をしました」。すると徐々に調子は上向いていく。大会直前の12月25日以降、神奈川大、山形中央高、流通経済大と練習試合をしたが、3試合全てでゴール。調子を取り戻すと、この日の初戦・那覇西戦でも得点を記録した。

 指揮官は「あそこで力強いシュートを打ってくれた」と本村を労い、「春先はああいうチャンスを決めきれずに悩んでいたが、今はいい状態が続いている」と称える。殊勲のストライカーは「やっとここに来てという感じで……お父さんが調子を上げてくれたのかな? と少し思いますけど」と微笑んだ。

 春からは関西1部のびわこ成蹊スポーツ大へ進学予定。「高校ではプロにはなれなかったですけど、大学でももちろんサッカーを続けるので。プロになれるように日々努力していきたいなと思っています」と意気込む。父の想いを知った今、その夢が色褪せることはない。

 とはいえ、まずは目前の高校選手権。大学進学後、母と離れることになるからこそ、家族の目前でプレーできる選手権の舞台で結果を残すつもりだ。「お母さんが独りになるので、恩返しできるのはここが最後かな。プロになって恩返しするのもありますが、今結果で恩返しするしかないので」と孝行息子は優しく誓った。

 『ヒーローになるように』。そんな願いを持ってつけられた比呂という名前。本村家の、富山一のヒーローになるべく、本村比呂はゴールを重ねていく。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 片岡涼)
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連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

優勝した2010年度以来の6発!滝川二が大分に完勝し3回戦へ滝川二高はDF今井悠樹主将の先制点を皮切りに6点を奪取

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滝川二高はDF今井悠樹主将の先制点を皮切りに6点を奪取

[1.2 全国高校選手権2回戦 大分高0-6滝川二高 柏の葉]

 思いもよらない大差がついた。戦前の大分高(大分)川崎元気監督の「五分だと思っている」という言葉どおり、接戦が予想されたが、蓋を開けてみれば6-0で滝川二高(兵庫)が大勝。滝川二にとって、FW樋口寛規とFW浜口孝太らを擁して選手権を制した2010年度以来となる6ゴールを記録し、佐賀東高(佐賀)が待つ3回戦進出を決めた。

 1回戦の中京高戦では開始2分で失点していた大分。「次の相手は、入りが悪いと確実に負けると思う」というエース、MF永松涼介(3年)の予想は的中してしまう。

 大分の試合の入りが悪いことを把握していた滝川二高(兵庫)は、開始3分、MF持井響太}(3年)の左CKの流れから、キャプテンが先制点を叩き込む。「あんまりシュートを打つチャンスもないので、自分がとるなんて思ってなかったです(笑)」というDF今井悠樹(3年)は、ゴールを決めるとベンチに駆け寄った。

 パスワークに優れる大分だが、決定機をなかなかつくれない。ゲームメイカーである永松には、MF朴光薫(2年)がマンマークについた。1回戦の中京戦ではピッチのいたるところでボールにさわり、パスをさばいていた10番の存在感は希薄だった。「10番に対して朴ががんばって自由にさせなかったのは、ひとつ大きな勝因」。試合後、滝川二の松岡徹監督は、2年生ボランチの働きを勝因のひとつに挙げた。

 1-0が続く中、初戦は途中出場、この試合では先発したFW江口颯(3年)がゴール。試合立ち上がりと、前半終了間際という“いい時間”に得点を重ねた滝川二がリードして前半を終えた。

 後半に入って、大分はFW谷川海翔(1年)、MF林孝伸(1年)を立て続けに投入。林のロングスローも駆使し、滝川二ゴールに迫るが1点が遠い。

 滝川二は後半29分に途中出場のFW稲田丈太郎(2年)が3点目。「後半に入って活きる」(松岡監督)と投入したFW溝田大輝(3年)が、前がかかりになった大分最終ラインの背後をついて終盤に2ゴールを奪う。アディショナルタイムには、MF神宮浩気(3年)がとどめを刺した。「稲田と溝田が点を取ったことで、チーム内が活気づいた」。1、2回戦で7選手がゴールを奪い、そのうち前線が5選手。選手権は連戦となるだけに、指揮官にとっては続く佐賀東戦での先発選びも悩ましいところだ。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 奥山典幸)

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連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

「勝たせるGKになることを意識してきた」レスリングで活躍の父持つ鹿児島城西GK泉森がPK戦でビッグセーブ!{c|鹿児島城西高}}の2年生GK泉森涼太がPK戦1人目を止めてガッツポーズ

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{c|鹿児島城西高}}の2年生GK泉森涼太がPK戦1人目を止めてガッツポーズ

[1.2 全国高校選手権2回戦 鹿児島城西高0-0(PK4-2)長崎総合科学大附高 等々力]

「勝たせるGK」になったことを証明した。0-0で突入したPK戦。鹿児島城西高の2年生GK泉森涼太が右へ跳躍して長崎総合科学大附高の1人目をいきなりストップする。

「雰囲気的にこっちかなというのがあった。当たって良かったです」。

 プリンスリーグ九州王者の長崎総科大附に対し、守備的なゲームプランで試合に臨んだ鹿児島城西だったが、DFたちが80分間身体を張って守り続けてくれた。狙い通りに0-0で80分を終えたチームの流れを守護神がPK戦で繋ぐ。「DFが結構頑張ってくれて、ここで止めないとチームに申し訳ない。1本目で止めてチームに安心感をもたらすことができて良かった」。

 鹿児島城西が4人連続で決めたのに対し、長崎総科大附は4人目のシュートがポストを直撃。泉森は笑顔で駆け寄るチームメートたちの中へ飛び込び、喜びを爆発させていた。「今年1年、勝たせるGKになることを意識してきた。去年も、一昨年もPK戦で負けているんで勝たせると決めていました」。その言葉通りのパフォーマンスで勝利をもたらした。

 小久保悟監督が「(PK戦は)結構止めるので、トレーニングのところから。信頼していました」と語り、CB生駒仁(2年)も「(PKは練習から)めっちゃ止めていました」というほどのPK戦の強さ。加えて、この日は相手のロングボール、クロスに対し、身体能力の高さを活かしたキャッチングを披露してゴールを割らせなかった。

 父・一喜さんは学生時代、全国大会で2位となり、代表チームの活動にも参加したことがあるのだという。「一瞬のスピードはあるので引き継いでいる部分はあると思います」という才能もこの日発揮した泉森が、3回戦では前回王者・東福岡高の前に立ちはだかる。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 吉田太郎)
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連載:高校マン・オブ・ザ・マッチ2016

 

一条が初の2回戦突破!「雰囲気に飲まれた」山形中央は初戦で涙前半35分、一条高MF梅本耕平が決勝弾を叩き込んだ

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前半35分、一条高MF梅本耕平が決勝弾を叩き込んだ

[1.2 全国高校選手権2回戦 山形中央高0-1一条高 西が丘]

 第95回全国高校サッカー選手権は2日、2回戦を行い、味の素フィールド西が丘の第1試合では3年ぶり7回目の出場となる一条高(奈良)が4年ぶり11回目の出場となる山形中央高(山形)に1ー0で勝利した。一条は3日に行われる3回戦で佐野日大高(栃木)と激突する。

 予選5試合で28得点を奪った攻撃力を提げて選手権に乗り込んだ一条が、細かいパスワークから流れを引き寄せた。立ち上がりから左サイドのドリブル突破で好機を演出するMF岩本修平(3年)が前半11分、後方からのフィードに飛び込んでヘディングで合わせたが、決定的なシュートは山形中央GK阿部拓真(3年)の好セーブに阻まれる。一条は続く17分にもMF加茂裕輝(3年)がスピードに乗ったドリブルで持ち上がり、フリーのFW小池竜雅(3年)がPA内右からシュートを蹴り込んだが、惜しくも枠をとらえられなかった。

 一方的に攻め込む一条。21分には岩本が小池に預けて猛然と走り込み、リターンをもらってPA左からシュートを放ったが、山形中央DF工藤万尋(2年)の身体を投げ出したブロックに止められる。だが35分、敵陣でのボール奪取からMF川崎航太(2年)がドリブルで持ち上がってPA内にスルーパス。勢いよく走り込んだMF梅本耕平(3年)が左足を振り抜き、先制点を叩き込んだ。

「僕たちが(選手権の)雰囲気に飲まれてしまったのは否めない。気持ちの高まりをコントロールできない選手もいた。前半はバタついてしまって、悔やまれるゲームの流れ」。山形中央の羽角哲弘監督は自滅してしまった前半を悔やんだ。県新人戦、県総体、県1部リーグ、選手権県予選と山形4冠を達成し、来季のプリンスリーグ東北昇格も決めた山形中央だったが、前半はシュート数0本。FW八矢悠雅(3年)の鋭い切り返しや突破は光ったものの、フィニッシュにはつながらず、防戦一方の展開だった。

 1ー0で前半を折り返した一条は、後半16分にFW秋月健(3年)が投入され、2トップの一角に入る。後半22分には小池が秋月とのワンツーから持ち上がって右足を振り抜いたが、強烈なシュートは右ポストを直撃。前田久監督は後半の攻め方について「前に出てきた裏を狙ったけど、カウンターが効果的じゃなかった。真ん中から行きすぎた」と反省を口にした。

 劣勢を強いられていた山形中央は終盤、意地を見せる。後半30分、PAへのスルーパスで抜け出したMF加藤優一(3年)がフリーで右足を振り抜いたが、シュートはミートせず。34分には左サイドをドリブルで切り込んだMF中川和彦(2年)がそのままシュートを放ったが、わずかにゴール右に外れ、絶好のチャンスを逸した。

 一条はCB稲葉大典を中心とした最終ラインの徹底したカバーリング、身体をぶつける献身的な守備で最後まで山形中央の攻撃を跳ね返し、1ー0で勝利。7回目となる出場で同校史上初となる2回戦突破を果たした。3日の3回戦は佐野日大と激突する。前田監督は「非常にいい後半の攻撃で苦しかった。後半、あそこまで足が止まるとは思わなかった」と苦笑しながらも、「頑張って守った。相手に気持ちよく抜け出させるシーンをつくらせなかった。ディフェンス面の粘りは評価したい」と守り勝った選手たちを称えた。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 佐藤亜希子)

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鹿島は今も気になる存在? スペイン紙が天皇杯優勝を大きく報じるクラブW杯決勝で延長戦の末、レアル・マドリーに2-4で敗れた鹿島アントラーズ

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クラブW杯決勝で延長戦の末、レアル・マドリーに2-4で敗れた鹿島アントラーズ

 “白い巨人”に襲いかかった深紅の戦士たちの姿が今も脳裏に焼き付いているのだろうか。スペイン『アス』が1日に天皇杯を制した鹿島アントラーズを大きく取り上げている。

 鹿島は1日、吹田スタジアムで行われた天皇杯決勝で川崎フロンターレを延長戦の末に2-1で下し、6年ぶり5回目の大会制覇。J1優勝と合わせて今季2冠とし、通算でも19個目のタイトル獲得となった。

 同紙では、他の海外サッカーの記事よりも大きなスペースを割き、鹿島の記事を掲載。「12月のクラブW杯決勝でレアル・マドリーに敗れた鹿島は、(今季獲得した)8度目のリーグタイトルにもう1つのカップを加えるため、川崎Fと対戦。鹿島は吹田での天皇杯決勝で川崎Fを2-1で破り、国内2冠を達成してシーズンを終えた」と伝えた。

 また、1-1で迎えた延長前半4分に決勝点を挙げたMFファブリシオの「私はチームを手助けしたいと考えていました。そして、その思いがゴールにつながって非常に満足しています」というコメントも掲載。さらに石井正忠監督が「選手たちは本当にこのタイトルを欲しがっていた」と話したことも付け加えた。

 最後に鹿島のこれまでの経緯について、「2週間前、鹿島は南米王者のA・ナシオナルを下してクラブW杯決勝に進出した日本初のチームとなった。横浜の決勝ではクリスティアーノ・ロナウドのハットトリックもあり、2-4で敗れた」と説明。

 この試合で鹿島はMF柴崎岳の2ゴールで一時2-1と逆転するなど、レアルと延長までもつれる激闘を演じた。同紙での取り上げ方の大きさを見る限り、現地では鹿島が“レアルを苦しめたチーム”として今も目が離せない存在となっているのかもしれない。


●第96回天皇杯特設ページ
●クラブW杯2016特集

遠かった1点…市船のG大阪内定MF高宇洋「1年間の課題が最後に出た」市立船橋のMF高宇洋は後半9分の決定機を生かせなかった

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市立船橋のMF高宇洋は後半9分の決定機を生かせなかった

[1.2 全国高校選手権2回戦 市立船橋高0-0(PK3-5)前橋育英高 フクアリ]

 1点を取り切れなかった。市立船橋高(千葉)は前橋育英の牙城を崩せず、0-0で80分間を終えると、PK3-5で敗戦。チームの司令塔である10番のMF高宇洋(3年=G大阪内定)は「守備はゼロに抑えて終わることができたけど、点が取れないというこの1年間の課題が最後に出たのかなと思う」と唇をかんだ。

 前橋育英のハイプレスに苦しんだ前半から一転、後半は市船が主導権を握った。足の止まり始めた前育に対し、DF真瀬拓海(3年)、DF杉山弾斗(2年)の両サイドバックが高い位置を取ってサイドから押し込む。しかし、ゴール前を固める相手守備陣をこじ開けられず、高自身、後半9分にあったGKと1対1の絶好機を生かせなかった。

 攻め手を増やしたかったラスト10分の戦い方について朝岡隆蔵監督は「交代カード、戦術的なオプションで難しさを感じた。0-0もあると思ってPKの練習をしてきたが……」と、攻撃面で“次の一手”を持てなかったことを認めた。

 夏の全国高校総体は決勝で流通経済大柏との千葉県勢対決を制し、3年ぶり9回目の優勝を果たした。高、DF杉岡大暉主将(3年=湘南内定)、DF原輝綺(3年=新潟内定)というプロ内定3選手を擁し、同校初の夏冬連覇を目指したが、その夢は儚く消えた。高は「(攻撃の課題は)ずっと言われてきたこと。練習の一つのシュート、一つの練習試合にこだわる姿勢をチーム全体としてもっと持つべきだった」と悔しそうに首を振った。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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[MOM2016]前橋育英GK月田啓(3年)_“やられた!”そのたびに立ちはだかった最後の砦好セーブを連発した前橋育英のGK月田啓

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好セーブを連発した前橋育英のGK月田啓

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 市立船橋高0-0(PK3-5)前橋育英高 フクアリ]

 最大級の賛辞を贈った。0-0からのPK戦の末、市立船橋(千葉)を破った前橋育英高(群馬)の山田耕介監督は「“やられた!”というのが3本ぐらいあった。1試合にGKがファインセーブ、ビッグセーブを3本やってくれれば勝てますよ」と称えたのがGK月田啓(3年)だ。

「間の取り方がうまくて、試合を落ち着かせて、ゲームをコントロールできる選手」。後半は市船の攻勢に押し込まれながらも慌てることなく、最後尾からチームを落ち着かせた。後半9分、MF高宇洋(3年=G大阪内定)との1対1を止め、同26分にはあわやオウンゴールという味方DFのクリアを鋭い反応でかき出した。

 極めつけは後半36分。左サイドからのFKがゴール前にこぼれ、DF原輝綺(3年=新潟内定)が詰めてきたが、至近距離で体を張った。それでも「自分としてはそんなにファインセーブとは思っていない。フィールドのみんなが頑張ってくれていたので、自分も止めないといけないと思っていた」と、淡々と振り返る。

 前半からハイプレッシャーで飛ばしていた前育の選手たちは徐々に運動量が落ちたが、守護神は冷静だった。「みんなが頑張ってくれていて、足が止まるのは仕方ない。来るシュートは全部止めてやろうと思っていた」。その言葉どおり、プロ内定選手の決定機をことごとく跳ね返し、最後までゴールを許さなかった。

 0-0のまま突入したPK戦では相手の1人目がポストに当てる失敗。自らの手で止めることはできなかったが、残り3本もすべて読みは当たっていた。「PKは得意ではない」。思わず苦笑いした月田だが、「自分が止められたら良かったけど、勝てたことが一番うれしい」と微笑んだ。

 市船を破り、まずはベスト16。目指す先は、準優勝した2年前の記録に並び、超えることだ。「もっと上に行きたいし、埼スタ(準決勝以降の会場)に行きたい。一昨年、決勝まで行った姿を僕らは見ている。自分たちもそこまで行きたい」。優勝候補の一角を崩した“タイガー軍団”が大会の主役へと躍り出る。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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“確信”を持って真ん中に蹴ったPK、前育MF大塚主将「一番目で気が楽だった」前橋育英のMF大塚諒主将はPK戦で重圧のかかる1人目を務めた

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前橋育英のMF大塚諒主将はPK戦で重圧のかかる1人目を務めた

[1.2 全国高校選手権2回戦 市立船橋高0-0(PK3-5)前橋育英高 フクアリ]

 迷わずド真ん中に蹴り込んだ。0-0のまま突入したPK戦。先攻の前橋育英高(群馬)はMF大塚諒主将(3年)が1人目のキッカーを務め、度胸満点にゴール中央へ決めた。

「逆に一番目のほうが気が楽だった」という大塚には、GKが確実に動くという“確信”があった。「GKは1人目は必ず飛ぶ。GKコーチもよく言っているけど、1人目は飛んで、どのぐらい届くのか、自分の感覚を確認したいもの。最初のキッカーから見るGKはほとんどいない」。その読みどおり、右に飛んだGKをあざ笑うようにボールはゴールマウスの真ん中へ吸い込まれた。

 大塚の成功がチームを落ち着かせ、PK戦では5人全員が成功した。その裏には監督と選手の信頼関係があった。03年度の1回戦・四日市中央工戦(1-1、PK2-3)、06年度の2回戦・那覇西戦(2-2、PK3-4)、10年度の3回戦・流通経済大柏戦(1-1、PK1-3)。前育には大会の序盤でPK戦に泣く大会が続いた時期があった。

「僕は長年、PKで勝てなかった」と振り返る山田耕介監督は当時、蹴り方やインパクトの強さ、コースなど、PKの練習をかなり詰め込んだという。「徹底してPKの練習をやった。それでもダメだった」。そう笑った指揮官がたどり着いた答えは、小細工をせず、選手に自信を持って蹴らせることだった。2年前の14年度大会は2度のPK戦をいずれも制し、準優勝。過去の教訓を生かしてきた。

「キックに自信を持って、自分を信じて蹴ること。思い切り蹴るのか、GKを見てタイミングをズラすのか、そこは選手の判断」。1人目の大塚だけでなく、3人目のMF田部井悠(2年)も真ん中に蹴って成功させた。選手の度胸と機転がもたらしたPK戦勝利だった。

 自分たちを信じてくれる監督の期待に応えたい。その思いが選手たちの力にもなっている。「PKは一番苦手」と話す大塚だが、主将として練習試合でも必ずPK戦は一番手を任されてきた。「監督が信じてくれているんだから決めるしかない」。その一心で蹴ったPK。「練習では必ず外しているんです。育英のGKとやると、いつも読まれて止められる。不安だったけど、気持ちで押し込みました」。170cmの小柄なキャプテンは照れくさそうに笑った。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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京都橘との激闘の反動…市船DF原輝綺「いいチームだったねで終わるのが悔しい」守備では強さを見せたDF原輝綺だが、チームを勝利には導けず

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守備では強さを見せたDF原輝綺だが、チームを勝利には導けず

[1.2 全国高校選手権2回戦 市立船橋高0-0(PK3-5)前橋育英高 フクアリ]

 目に見えない疲れがあったのかもしれない。夏冬連覇を目指した市立船橋高(千葉)だが、2年連続でPK戦で涙をのんだ。「あらためて選手権の難しさを感じた」。DF原輝綺(3年=新潟内定)は目の前の現実を受け止められずにいた。

 前橋育英のハイプレスに苦しんだ。「入りはチームとしても個人としてもうまくいかないことが多かった。どの相手にも研究されて、対策を練られることは分かっていた。そこで修整できずに最後までズルズルいってしまったのが敗因」。夏の王者としてマークされる難しさ。さらに昨年12月31日に行われた1回戦・京都橘戦(1-0)の激闘も選手たちの体をむしばんでいた。

 DF杉岡大暉主将(3年=湘南内定)は「一昨日、あれだけの試合をして、少し(体に)重さを感じた部分はあった」と認める。高校No.1FW岩崎悠人擁する京都橘との初戦は、世間の注目を集めた大一番だった。原は「一つヤマ場を乗り越えて、次の試合が難しくなることはチームみんなで話していた。もう一つの乗り越えどころと話していたけど……」と唇をかむ。

 朝岡隆蔵監督は「初戦にターゲットを持ってこないといけないときは難しい。この2戦目がキーだった」と指摘。「いい緊張感を持って初戦を迎えて、そこを越えた先にこういうことが待っている。安心感があったのかもしれないが、そこでスイッチを入れないといけないし、僕が入れてあげられなかった」と、自らのチームマネジメントを責めた。

 日本一を目指した最後の大会は2回戦で幕を閉じた。優勝候補の一角を担いながら、早すぎる敗退。原は「どんなにいい内容でも、勝たないと次はない。いいサッカーをして、“いいチームだったね”で終わるのが悔しい。いいサッカーをして負けるぐらいなら、内容が悪くても勝つほうを選びたかった。勝てなかったことがすべて」とうなだれた。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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【特設】高校選手権2016

前回大会から全4戦無失点も…2年連続PK敗退の市船DF杉岡「80分という難しさあった」市立船橋のDF杉岡大暉主将は2年間で無失点ながら2年連続PK負けで全国高校選手権を終えた

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市立船橋のDF杉岡大暉主将は2年間で無失点ながら2年連続PK負けで全国高校選手権を終えた

[1.2 全国高校選手権2回戦 市立船橋高0-0(PK3-5)前橋育英高 フクアリ]

 2年間で失点は一つもなかった。しかし、点を取らなければ勝つことはできない。2年連続でPK戦の末、敗退した市立船橋高(千葉)のDF杉岡大暉主将(3年=湘南内定)は「80分という時間の中で勝ち切る難しさを感じた」と率直に認めた。

 準々決勝までは40分ハーフ、延長戦なしという大会のレギュレーション。「延長があれば力のあるチームが出てくるかもしれないけど、(延長が)ない以上、(80分を)守り切ればチャンスがある大会。難しさはあった」。1年時から名門の最終ラインを守ってきたDFは昨年度の全国高校選手権でもレギュラーを務めた。初戦の2回戦は米子北に3-0で勝ったが、3回戦で東福岡に0-0からPK3-4で敗退。今大会も1回戦は京都橘に1-0の完封勝利をおさめたが、この日またしても0-0からのPK戦に屈した。

「前育のほうが気持ち的に一つ上だったのかなと思う」。2年間失点ゼロで守り切りながら、早期敗退に終わった杉岡は、あらためて全国高校選手権という大会への思いを強めていた。「素晴らしい大会だったし、貴重な3年間だった」。卒業後は湘南入団が決まっている。「プロに行く以上、活躍して市船に恩返ししたい」と話すキャプテンは「何らかの形でまた高校サッカーに携わりたい」と、現役引退後の“夢”も語った。

「スタッフでも何でもいいので、この舞台で優勝したい。この難しい大会で優勝したい。プロになっても、こういう気持ちになる大会はないと思う」。たとえ選手ではなくても、いつの日か市船の“一員”としてまたこの舞台に戻ってくる。杉岡は高校3年間の思い出と感謝を胸に、次なるステージへ進む。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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